関連医学用語(終末期を考えるときに知っておきたい医学用語)

text:福島 智恵美

第1回 はじめに「みなさんは、ご飯が待ち遠しいですか?」

 おいしいものをたくさん食べた〜い!

 食事の時間が待ち遠しい!

 体が食事を楽しみにしているのは、健康のバロメーターといわれています。実際、糖尿病、高脂血症、肥満等で食事制限が必要な方はおられますが、食事をおいしくいただけるというのは、身体的・精神的にも安定している状態であるといえるのではないでしょうか。吐き気があったり、お腹が痛かったり、気分が落ち込んでいるときには同じ食事でもおいしくなくなってしまいます。また、ひとりで食べるよりも、家族や友人と食べるとおいしく感じたり、環境によっても変わります。この楽しいはずの食事が、苦痛で仕方がなくなることがあるってご存知ですか? 年齢を重ね、脳梗塞等の病気になったりして飲み込み(嚥下)の力が落ちてしまうと、食事を食べるということができなくなってくるのです。食べたくてもむせてしまったり、肺炎になりやすくなったり、食べるのに疲れてしまい量が食べられなくなります。そうすると栄養状態が徐々に低下して、さらに飲み込む力がなくなります。

 こういったとき、昔はだんだん食べる量が減り、木が枯れるように最期を迎えるということが普通でした。しかし、現在の医学では、食べられなくなると入院し、調べても原因がわからない場合もありますが、栄養が口から十分とれないため、今後の命をつなぐためにどうするかという問題がでてきます。ご本人の意向がわからない場合も多く、家族がその代わりを果たす必要に迫られます。今後どこで過ごすかという問題とも関わって、昔のような方法を選択することが大変むずかしくなっています。在宅では、そのまま食べられる分だけ口から食べて、場合によってはときどき手足の血管から点滴をします。病院では、治療の場ですから、その選択は取りにくく、今後の、施設に行く、病院に行く、あるいは家に帰るといった過ごす場所の選択の上で、施設なら胃ろう(胃にお口をつくる手術をして、お腹の口から栄養を入れる)、病院であれば胃瘻(いろう)ないし点滴、中心静脈栄養(体の太い血管に点滴の管を入れる処置をする)、在宅であれば、いずれも選択肢として考えられます。ただ、在宅では胃瘻(いろう)は家族が、点滴等は家族か看護師が援助をします。ヘルパーさんは援助できません。そういった介護負担との兼ね合いが出てくるのです。

 今回は、自分が食べられなくなったときにどういった形でその後の生活を送りたいか、少し考えるきっかけになればと思っております。それぞれの言葉の説明は次回以降また行いますね。


第2回 胃瘻(いろう)? おなかのお口??とは

 胃瘻(いろう)という言葉を聞いたことがありますか? イロウと読みます。この言葉と初めて出会った方はびっくりされたに違いありません。脳梗塞、神経筋疾患などで物が飲み込めなくなったり、必要カロリーや水分を口からとれなくなったとき、胃瘻=胃にお口をつくる手術をして、お腹の口から直接栄養を入れる方法として説明を受けます。

 手術の方法は、上部消化管内視鏡(胃カメラ)検査後、続けて上腹部に局所麻酔をし、カメラで胃内を観察しながら、お腹の外側の皮膚から胃に針を通し、その針を使ってチューブを挿入します。時間は15分前後かかります。

 合併症の可能性があり、胃瘻をつくる時に起こるものとしては、つくったところの傷の感染や出血、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)、腹膜炎、肝臓、大腸の誤穿刺(ごせんし)、腹壁損傷などがあります。上腹部の手術をした方では、開腹手術で胃瘻をつくることもあります。つくった後の合併症としては、栄養剤の漏れ、嘔吐、胃潰瘍、チューブ誤挿入、幽門(ゆうもん=胃の出口)通過障害、胃瘻周囲の皮膚のびらんなどがあります。また、つくったばかりの時には、チューブの穴が完成していないため、チューブが誤って抜けてしまったり、抜いてしまったりすることに注意が必要です。

 これらの合併症が起こることがありますが、順調に進めば、体力が回復して飲み込む機能が改善し再び口からとれるようになる方もいます。夏場、水分が十分とれないなどの場合には、胃瘻から水分やポカリスエットなどを補給して脱水を防ぐこともできます。反対に、かえって痰が増え、吸引といった痰を取る作業が必要となる方もおり、肺炎の危険性も高く、夜間含めての吸引などで家族の介護が難しくなる方もいます。

 胃瘻からの栄養剤の投与や痰の吸引は、家族、看護師、医師は行えますが、ヘルパーは基本的には行えないという決まりです。老老介護で介護者の手に負えない場合には自宅に戻れないケースもみられます。施設に入る場合には、自分自身では「口から食べられなくなったらそのまま自然に」と考えていても、十分口から食事がとれないため胃瘻をつくらざるを得ない場合もあります。施設によっては胃瘻では入れなかったり、受け入れ人数が制限されていることがあります。

 このように今後生活する場所、周囲の介護力からも胃瘻にするかどうかの判断が異なってくることがあります。医師から「胃瘻が必要」と判断されたとき、自分としてはどうしたいのかを考え、家族と話し合っておくことも大切かもしれません。

 胃瘻をつくらないことを選択する場合は、徐々に体は衰弱しますが、口から食べられる分だけをとり自然の経過に任せる、という覚悟が必要です。その場合は、自宅で過ごすか、胃瘻がなくても受けてくれる施設を探すことになるでしょう。点滴を希望される場合は、状況に応じて医師と相談することになり、施設は無理なので自宅で過ごすか、入れる病院を探すことになります。

 今回は重い話でしたが、自分自身や家族のこれからのことを話し合うきっかけにしてもらえれば、と思っています。


第3回 点滴について

 点滴治療を受けたことがありますか?

 点滴は、食べたものを吐いてしまう、食事が取れない、水分が取れない、脱水症状でふらふらする、そういった時によく行われる治療法のひとつです。「経静脈栄養法」といわれ、前回お話した胃瘻(いろう、経腸栄養法のひとつ)とは違う治療法になります。

 経静脈栄養法には、手足の末梢の血管から輸液を投与する末梢静脈栄養法(peripheral parenteral nutrition:PPN)と、鎖骨の下、首、太ももの静脈等にカテーテルを挿入し、輸液を投与する中心静脈栄養法(total parenteral nutrition:TPN)とがあります。経静脈栄養法を実施しなければならない期間が、2週間以内であれば末梢静脈栄養法を、それ以上の場合には中心静脈栄養法を選択するのが一般的です。また、末梢静脈栄養法は、栄養状態の維持や脱水症状の補正を目的として行われることが多く、栄養状態の改善を目的とする場合には中心静脈栄養法がとられます。

 口から食べられる分だけでは脱水症状が出たり、栄養不良になってしまう場合に、末梢静脈栄養法が選択されることがあります。腸管が使用可能なときには、前回お話した経腸栄養法の採用も考慮します。末梢静脈の状態によっては末梢静脈栄養法が行えず、中心静脈栄養法を行うかどうか検討されることがあります。老衰などの理由で回復が望めない状態のときは、点滴をいつまで行うか、また、高カロリー輸液(intravenous hyperalimentation:IVH。糖質、アミノ酸、電解質を含む輸液を、通常の消費エネルギーと同等あるいはそれ以上に経静脈的に投与する方法)といわれる点滴を行うか、胃瘻などの経腸栄養法を行うかどうか――などについて判断しなければなりません。

 点滴は一般的な治療法ですが、これを行わないと徐々に脱水状態になり、栄養不良が深刻化していくと考えられる場合でも、終わりのない点滴治療をあえて希望しない方もおられます。また、経腸栄養法は望まずに末梢静脈栄養法を選択し、点滴が施行できる間は、連日、ないし週に何回か治療を受けながら生活されている方もいます。

 きちんとした診断、治療を受けても、なお食事が十分量摂れないとき、どういう形でその後の治療を行うかは、生活する場所をどうするか含めて、本人の意向を尊重し、家族とも相談しながら考えていかなければならない大切な問題です。その場合にどうして欲しいのか。胃瘻を選ぶのか、点滴か、自然にまかせるのか――等々、自分の希望を主治医や家族に伝えておくことは、もしもその時、あなたが意思表示できなくなっていたとしても、周囲の人たちが治療方法を決断する際の「良き道しるべ」になるでしょう。


第4回 人生の終わりを過ごす場所

 みなさんは、人生の終わりを、どこで過ごしたいでしょうか。これは、とても大きな問題です。家族のそばで、自分の家で、介護の行き届いたところでなど、人それぞれに大切にしたい場所があるでしょう。

 みなさんは、自分や、愛する家族が、人生の終わりについてどう思っているのか、話し合ったことがあるでしょうか。病院には90歳を超す入院患者がいます。その娘さん、息子さんに会うと、父親や母親が、いつかは亡くなってしまうことを考えずに過ごしてきた人がおられます。普段から、自分はどうしておきたいのかを伝えておくことが大切です。

 最期に過ごす場所を選ぶには、自分の思いだけでなく、元気な状態でいるのか、歩けなくなっているのか、認知症になっているのか、そういった心身の状態も関係してきます。

 胃瘻がついていれば、在宅、施設、病院で過ごす可能性があります。施設の入居者数に制限のあるところが多く、受け入れ先が見つからないことも多い状況です。在宅では、家族か看護師でないと胃瘻を扱えず、介護士では援助ができません。

 点滴、中心静脈栄養を行っていれば、在宅か病院となり、在宅では家族か看護師でないと扱えません。酸素や膀胱留置カテーテル(持続的に尿を排泄させるための管)が必要であれば、在宅か病院でしょう。施設では難しいことが多いようです。人工呼吸器を使用していれば、在宅か病院となります。

 自分が最後に受ける医療によって、過ごす場所も決まってくる現実。過ごしたい場所を見つけるだけではなく、どういった終末期医療を受けたいのかを考えることが、とても大切です。

 自分が納得した人生の閉じかたは、どういった形なのか。自分の心に秘めていてはいけません。ご家族、主治医に是非伝えておいてください。